『光シグナルトランスダクション』 シュプリンガー・フェアラーク東京 (1999)
pp.146-151

14. ロドプシンおよびアイオドプシン
14. 2. 脳内光受容タンパク質ピノプシン

東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻, 科学技術振興事業団CREST
深田 吉孝,笠原 和起




14.2.1 松果体の光受容能と概日時計

 光は空間の情報源としてだけではなく,時間の情報源にもなりうる.たとえば,外界の明暗変化から昼夜の区別ができるであろうし,昼(あるいは夜)の長さの変化をもとに季節の移り変わりを知ることも可能であろう.哺乳類を除く脊椎動物の多くは,視覚を担う網膜以外にも脳内に光受容組織を持っており,時間情報として光を受容していると考えられている.そのなかで,松果体はおもに昼夜を識別するための光受容を担っている.

 眼と同様に,松果体は間脳の一部が突出した組織であり,ヒトの場合は脳の深部に存在するが,齧歯類や鳥類以下の脊椎動物の松果体は,容易に光を受容することができる脳の表面(頭蓋の直下)に位置している.また,松果体はホルモンの一種であるメラトニンを分泌するが,その分泌量は概日時計と外界の光によって調節され,夜高く昼低いという日周リズムを示す.個体の行動を制御する概日時計は,哺乳類の場合は視交叉上核に存在し,その神経支配によって松果体がメラトニンを周期的に分泌している.

 一方,哺乳類以外の脊椎動物の松果体は,メラトニンの合成機能や光受容機能だけでなく,概日時計の発振機能をもちあわせている.特にニワトリの松果体は細胞や器官を培養する方法が早くから確立され,上記の3つの機能が松果体細胞一個一個に共存していることが明らかになるなど,概日時計研究の優れた実験材料として盛んに用いられてきた[1-3].

 周期的な環境変化がなくても概日時計は自律的に時を刻む.しかし,その内在性の発振周期は,地球の自転と公転に基づく24時間という一日の周期と正確に一致しているわけではないため,時計の時刻を調節する必要がある.この時刻合わせのための一つの手段として多くの生物は光(明暗周期)を利用している.それでは,ニワトリの松果体にはどのような光受容分子が存在しているのだろうか.


14.2.2 ピノプシンの発見

 免疫組織化学的な研究から,視細胞において光信号伝達を担うタンパク質群がニワトリ松果体細胞にも存在する可能性が示されていた.このことから松果体の光受容タンパク質も網膜の光受容タンパク質(視物質)に類似していると予想された.

 そこで,複数の視物質のcDNAをプローブに用いてニワトリ松果体cDNAライブラリーをスクリーニングしたところ,既知の視物質と相同性を示す新規タンパク質をコードしているcDNAが得られた.ノーザンブロット解析から,この遺伝子は松果体において特異的に発現しており,網膜や脳の他の部位などには発現していないことが明らかとなった.さらに,この新しいタンパク質が光受容能を持っていることを確かめるために,単離したcDNAを動物培養細胞に導入してタンパク質を強制発現させた.発現タンパク質を含む膜画分に,発色団として11-シス型レチナールを添加したところ,468nmに吸収極大をもつ青色感受性色素が生成した(図1).

 そこで,このタンパク質を松果体(pineal gland)のオプシン(opsin)という意味からピノプシン(pinopsin)と命名した[4].

図1 培養細胞で発現させたピノプシンの吸収スペクトル
 ピノプシンcDNAを動物培養細胞(293EBNA)に導入してタンパク質を強制発現させ,その細胞の膜画分に11-シス型レチナールを添加したのち発現タンパク質を可溶化した.この抽出液に終濃度で10μMとなるようヒドロキシルアミンを加え,オレンジ色光照射前後の差吸収スペクトルを示した(吸収極大波長: 468nm).ピノプシンcDNAの代わりにCAT(クロラムフェニコールアセチル転移酵素)遺伝子を293EBNA細胞に導入し,同じ実験を行った時の差吸収スペクトルをコントロールとして示した.



14.2.3 ピノプシンの構造と局在

 ピノプシンは,351アミノ酸残基の単一のポリペプチド鎖および発色団11-シス型レチナールからなる光受容タンパク質である.ロドプシンなどの視物質と比較すると,アミノ酸レベルでの相同性はそれほど高くない(40〜50%).しかし,ロドプシンにおけるGタンパク質(トランスデューシン)との相互作用部位をピノプシンと比較すると,かなり高い割合でアミノ酸が保存されている(図2).また,ニワトリ松果体にはトランスデューシン様のGタンパク質が存在すると予想されていた[5]が,事実,桿体型のトランスデューシンαサブユニット(Gt1α)をコードするcDNAがニワトリ松果体cDNAライブラリーから単離された[6].これらの事実を考え併せると,松果体細胞においてもトランスデューシンがピノプシンから光情報を受け取っていると考えられる.

図2 細胞膜におけるピノプシンの推定構造
 ピノプシンのアミノ酸配列を7回膜貫通モデルで表した.ピノプシンの膜貫通領域は,ハイドロパシープロットの結果とウシロドプシンの構造をもとに推定した.ロドプシンにおいて明らかにされているGタンパク質との相互作用領域のアミノ酸配列をニワトリの6種類の光受容タンパク質(ピノプシン,ロドプシンおよび錐体視物質の赤,緑,青,紫)の間で比較した.


 ピノプシンの細胞内局在を調べるため,ピノプシンを特異的に認識する抗体を作製し,松果体切片や分散した松果体細胞を免疫染色した[7,8].ニワトリ松果体細胞の外節には,視細胞外節にみられるような規則正しいラメラ状の膜構造は認められないが[8],やはり外節にピノプシンが局在していることがわかった(図3).つまり,視細胞と松果体細胞の外節は,光受容という同じ役割を担っていることになる.


図3 ピノプシンの細胞内局在
 酵素処理によって分散させたニワトリ松果体細胞(左:微分干渉像)をピノプシン抗体で免疫染色した(右:FITC蛍光像).松果体細胞の外節部分にピノプシンが局在していることがわかる.



14.2.3 ピノプシンの分子進化

 アミノ酸(配列)の相同性をもとに分子系統樹を作成することによって,光受容タンパク質のなかで遺伝子重複(分岐)が起きた順序やおおよその年代を推定することができる[9].

 図4に示したように,ピノプシンの祖先遺伝子が生じた点bは,脊椎動物の視物質の祖先遺伝子が色感受性の異なる数種のグループに分岐した点aとほぼ同時期である.図4において,ロドプシングループの系統関係に注目すると,点cのあたりで脊椎動物が出現したと推測できる[9].この点cよりも古い時代にピノプシンの祖先遺伝子が分岐している(点b)ので,脊椎動物が出現したときには,すでにピノプシン遺伝子を獲得しており,失ってさえいなければすべての脊椎動物はピノプシン遺伝子を現在も持っていると予想される.事実,ニワトリピノプシンがクローニングされたのに引き続き,ハト,アメリカカメレオン,ヒキガエルなど,鳥類のみならず爬虫類や両生類からもピノプシンが見つかっている.

図4 脊椎動物の光受容タンパク質の分子系統樹
 脊椎動物のいくつかの光受容タンパク質のアミノ酸配列をもとに近隣接合法を用いて分子系統樹を作成した.ショウジョウバエのロドプシン(Rh1)をアウトグループとして系統樹の根を決定し,古い時代に起きた分岐ほど左側になるように描いた.点aは色感受性の異なる各視物質が分岐した点を,点bはピノプシンの祖先遺伝子が生まれた点を,点cは最も下等な脊椎動物の一種ヤツメウナギのロドプシンがより高等な脊椎動物のロドプシンと分岐した点を示している.吸収極大波長が調べられている光受容タンパク質についてはその値を( )内に示した.最近,VAオプシン[15]やパラピノプシン[16]が魚類からクローニングされたが,これらの生理的な役割は不明である.

 ハトピノプシンは,ニワトリの場合と同じく,松果体においてのみ発現している[7,10]が,アメリカカメレオンでは松果体以外に頭頂眼(松果体と対をなす副松果体が分化した器官)においてもピノプシンが発現している[11].一方,ヒキガエルでは興味深い結果が得られている.ヒキガエルのピノプシンは松果体には認められないが,視床下部の第三脳室近傍の視束前核前部に発現している[12].この領域は,ヒキガエルの繁殖行動を司る重要な脳内部位として知られており,ピノプシンによる光受容は季節性の生殖応答など光周性に関連している可能性がある.


14.2.4 ピノプシンの転写リズム

 ニワトリ網膜においては,赤色感受性の錐体視物質であるアイオドプシンのmRNA量は顕著な日周リズムを示し,概日時計によって転写調節を受けている.ピノプシンの場合も,ノーザンブロット解析の過程でmRNA量に大きな変動が見られたので,ヒヨコを12時間毎の明暗サイクル下で飼育し,さまざまな時間帯に摘出した松果体のピノプシンmRNA量を比較した(図5: ─○─).

 その結果,松果体のピノプシンmRNA量は昼(明期)に高く,夜(暗期)になると大きく減少した(図5の6日目).次に恒暗条件下にヒヨコを移すと,ピノプシンmRNA量は昼に相当する時間になっても増加せずに低いレベルのままであったが(7日目),そののち再び光を照射するとmRNA量は上昇し始めた(8日目).この光によるmRNA量の上昇は,一日のいかなる時間帯においても観察された.つまり,ピノプシン遺伝子の発現は概日時計によって調節されているのではなく,光刺激によって誘導されていることになる.この現象は,器官培養した松果体においてもみられることから,おそらくピノプシン自身が受容した光信号によって自らの遺伝子発現が誘導されていると考えられる[13].

 一方,ピノプシンのタンパク質量(図5: ─■─)は,12時間毎の明暗サイクル下では大きく変化することはない(6日目).ところが,恒暗条件下に移すとピノプシンタンパク質量は半分以下に減少し(7日目),光を照射すると再び増加し始めた(8日目).これらの結果を総合して考えると,ピノプシン遺伝子が光依存的に転写されることの生理的な意味は,光分解したピノプシンを補償してタンパク質量を一定に保つ(光感受性を保つ)ことにあるのではないかと考えられる[13].


図5 ピノプシンのmRNA量とタンパク質量の変動
 ふ化直後のヒヨコを12時間毎の明暗サイクル下で5日間飼育したのち,6日目から3時間間隔でヒヨコから松果体を摘出し,そこに含まれるピノプシンmRNAとタンパク質を定量した.グラフ下の白黒の帯は6日目からの光条件を示す.7日目は恒暗条件に保ち,8日目の昼に再び光照射した.



14.2.5 おわりに

 ピノプシンは,脊椎動物の網膜外に発現する光受容タンパク質として初めて分子レベルで同定された.特に,概日リズムを生み出すニワトリ松果体に発現していることから,ピノプシンは概日時計の時刻合わせという役割を担っていると考えるのが自然である.しかしながら,この考えを裏付ける実験的証拠は今のところ得られていない.

 ピノプシンやロドプシンが光を受容するためには,発色団としてビタミンAアルデヒド(レチナール)が必須であるが,ビタミンAの欠乏培地中でニワトリ松果体細胞を培養をしても,概日時計が明暗周期に同調するという報告もある[14].ピノプシンが受容した光シグナルは概日時計に入力するのか,また,光シグナルの伝達経路はいかなる分子群で構成されているのか,これらの疑問に答えることが今後の研究課題である.



【文献リスト】

1. Deguchi, T (1979) A circadian oscillator in cultured cells of chicken pineal gland. Nature 282:94-96

2. Takahashi JS, Murakami N, Nikaido SS, Pratt B, Robertson LM (1989) The avian pineal, a vertebrate model system of the circadian oscillator: Cellular regulation of circadian rhythms by light, second messengers, and macromolecular synthesis. Recent Prog. Horm. Res. 45:279-352

3. Nakahara K, Murakami N, Nasu T, Kuroda H, Murakami T (1997) Individual pineal cells in chick possess photoreceptive, circadian clock and melatonin-synthesizing capacities in vitro. Brain Res. 774:242-245

4. Okano T, Yoshizawa T, Fukada Y (1994) Pinopsin is a chicken pineal photoreceptive molecule. Nature 372:94-97

5. van Veen T, Ostholm T, Gierschik P, Spiegel A, Somers R, Korf HW, Klein DC (1986) α-Transducin immunoreactivity in retinae and sensory pineal organs of adult vertebrates. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:912-916

6. 笠原和起, 岡野俊行, 吉川朋子, 山崎一恭, 深田吉孝 (1997) ニワトリ松果体の光情報伝達系に関与するGタンパク質. 生物物理37:S221

7. Okano T, Takanaka Y, Nakamura A, Hirunagi K, Adachi A, Ebihara S, Fukada Y (1997) Immunocytochemical identification of pinopsin in pineal glands of chicken and pigeon. Mol. Brain Res. 50:190-196

8. Hirunagi K, Ebihara S, Okano T, Takanaka Y, Fukada Y (1997) Immunoelectron-microscopic investigation of the subcellular localization of pinopsin in the pineal organ of the chicken. Cell Tissue Res. 289:235-241

9. Okano T, Kojima D, Fukada Y, Shichida Y, Yoshizawa T (1992) Primary structures of chicken cone visual pigments: Vertebrate rhodopsins have evolved out of cone visual pigments. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:5932-5936

10. Kawamura S, Yokoyama S (1996) Molecular characterization of the pigeon P-opsin gene. Gene 182:213-214

11. Kawamura S, Yokoyama S (1997) Expression of visual and nonvisual opsins in American chameleon. Vision Res. 37:1867-1871

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13. Takanaka Y, Okano T, Iigo M, Fukada Y (1998) Light-dependent expression of pinopsin gene in chicken pineal gland. J. Neurochem. 70:908-913

14. Zatz M (1994) Photoendocrine transduction in cultured chick pineal cells: IV. What do vitamin A depletion and retinaldehyde addition do to the effects of light on the melatonin rhythm? J. Neurochem. 62:2001-2011

15. Soni BG, Foster RG (1997) A novel and ancient vertebrate opsin. FEBS Lett. 406:279-283

16. Blackshaw S, Snyder SH (1997) Parapinopsin, a novel catfish opsin localized to the parapineal organ, defines a new gene family. J. Neurosci. 17:8083-8092