バイオイメージング 7, 221-226 (1999)


時計細胞の時刻を可視化する
〜イメージングに残された最後の秘境〜

東京大学大学院理学系研究科, 科学技術振興事業団CREST
笠原和起, 岡野俊行




 蛍光プローブや改良型GFPの開発は、CCDカメラやコンピューターの発達と相まって、細胞内の各種のイベントをリアルタイムで観察することを可能にした。そして現在、イメージングは医学・生物学の研究には欠かせない重要な手法の一つとなり、さまざまな生物のさまざまな細胞を用いて多くの成果を挙げているのは周知の通りである。

 ところが、いまだにイメージングを応用することが極めて難しい細胞が存在する。光を感じる細胞である。観察するという行為(光を照射すること)が刺激となってしまい、観察する対象の状態を変化させてしまうからである。

 筆者たちは、おもに脊椎動物の網膜や松果体の光情報伝達を研究している。イメージングを用いた素晴らしい成果の数々を横目に見ながら羨ましく思う一方、どうにかして自分たちの研究に応用できないかと考えていた。励起光または観察光の光量を弱くする、あるいは細胞が感じない波長にするなど、方法はいくらでもありそうだが、生物の仕組みは非常に優れているためそう簡単にはゆかない。

 例えば、網膜の光受容分子のひとつであるロドプシンは、桿体外節の全タンパク質量の90%をしめるほど大量に存在する上に、受容した光シグナルを何万倍にも増幅する伝達経路をもっている。また、波長に関しても、ロドプシンは紫外領域から650nmまでの広い可視領域に光感受性をもつため、ほとんどの蛍光プローブの励起光に感じてしまう。とはいえ、近年、励起波長が600nmよりも長い蛍光色素がわずかではあるが開発されたことは心強い。


1. 概日時計と光同調

 筆者たちは現在、網膜や松果体の概日時計がどのような分子メカニズムで光リセット(時刻調節)されているかを研究している。概日時計は約24時間周期の生物時計で、外部からの入力がない状態でも自律的に時を刻む自己発振システムである。概日時計の時刻を外部環境の日周変動に同調させる環境因子として最も重要な役割を果たしているのが光である。例えば哺乳類の場合、網膜で受容された光情報の一部が、概日時計の中枢(主時計)である脳内の視交叉上核(SCN)に伝達され、時刻の調節を行う。

 哺乳類以外の脊椎動物では、松果体や網膜に主時計をもつ種が多い。松果体は網膜と同様に間脳由来の組織であり、哺乳類では時計機能も光受容能も失っているが、鳥類以下では光を感じる概日時計組織である。ニワトリの場合、ひとつひとつの松果体細胞が時計機能と光受容能そしてメラトニンの合成系をもちあわせ、分散培養しても明暗周期に時計が同調し、メラトニンを夜多く、昼少ないという24時間の周期で分泌する(図1)。

図1 ニワトリ松果体細胞のメラトニンリズム
 倒立顕微鏡のステージ上に設置した特製の培養器内で松果体細胞を灌流培養し、回収した培養液中に含まれるメラトニンをHPLCで定量した。グラフ下の白黒の帯はステージ上の光条件(黒は暗期、白は明期)を表す。恒暗条件下でも、松果体細胞が分泌するメラトニンの量は約1日周期のリズムを示すことから、メラトニンの合成・分泌機構が細胞内の概日時計に支配されていることがわかる。


2. サーカディアン光受容体は何か?

 近年、概日時計を構成する分子の遺伝子クローニングが次々と成功し、発振メカニズムの解明が急速に進められている1)。これと並んで、概日時計の時刻調節を担う光受容分子(サーカディアン光受容体)の同定が、時間生物学の分野で現在最もホットなトピックの一つである。

 筆者たちは、サーカディアン光受容体の同定を目指して1994年、世界に先駆けてニワトリ松果体の光受容分子ピノプシンをクローニングした2)。ピノプシンはロドプシンファミリー(オプシン)に属する分子であり、これが松果体に特異的に発現していたこと、さらに松果体の概日時計に与える光の作用スペクトルがオプシンの吸収スペクトルに類似していたことから、網膜なども含めて一般的にサーカディアン光受容体はオプシンであると推定された。しかしながら、盲目の人や網膜の視細胞が消滅したマウスの行動リズムも外界の明暗周期に同調するなど、「サーカディアン光受容体=オプシン」説では説明できない現象も知られていた。

 1996年に、オプシンとは全く構造の異なる光受容分子であるクリプトクロームが動物から見つかった3)。クリプトクロームはDNA修復酵素と構造上の相似があり、光受容能を持っているもののDNA修復能はない。クリプトクロームは、植物において開花時期などを決める光受容分子として働いており、動物における生理的機能は未だ不明であるが、もしかするとサーカディアン光受容体ではないか、とにわかに注目を浴びるようになった。さらに、ショウジョウバエの脚や触覚、羽などの細胞も時計機能を持ち、各組織を単離・培養しても各々の時計が光に同調することが判明し4)、全身に発現しているクリプトクロームこそサーカディアン光受容体であると主張されるようになった。ごく最近、クリプトクロームを欠損したマウスやショウジョウバエが作製されたが、それらの行動リズムが外部の明暗周期に同調したことから、行動リズムを支配する概日時計(主時計)の光同調には、クリプトクロームだけでなく複数種類の光受容分子が関与していると考えられている5)

 このようにサーカディアン光受容体に関しては百家争鳴の観がある。脊椎動物の場合、オプシンの発現している組織と主時計の局在する組織は、同一あるいは互いに神経連絡しているので、オプシンと主時計は密接な関係があるに違いない。クリプトクロームの関与もおそらくゼロではないだろうが、生理的条件下におけるサーカディアン光受容体はオプシンであるという仮説のもとに筆者たちは研究をしている。

 それでは、光を感じる細胞にイメージングをなぜ利用しようと考えたのかを、筆者らのこれまでの研究を説明しながら述べたい。


3. 時刻の可視化

 ピノプシンから始まる松果体細胞の光情報伝達経路を明らかにするため、筆者たちはニワトリ松果体に発現するGタンパク質のクローニングを行った。ピノプシンはロドプシンなどと同様に、三量体型Gタンパク質との相互作用部位をもっていたからである。その結果、網膜の桿体視細胞において視興奮過程の中心的役割を果たすトランスデューシン(Gt1α)と同一の分子が、松果体にも発現していることが明らかになった。

 しかしながら、トランスデューシンを介した光情報伝達経路は概日時計の光リセットを担っていないと考えられていた。というのも、トランスデューシンを含む一群のGタンパク質の機能を阻害する百日咳毒素をニワトリ松果体細胞に投与しても、光による時刻調節に影響を与えなかったからである6)

 この事実は、トランスデューシンを介さない細胞内情報伝達経路の存在を示唆している。クリプトクロームなどのオプシンと異なる光受容分子の関与も否定はできないが、筆者たちはクローニングの過程で、G11αという百日咳毒素に非感受性のGタンパク質が松果体に発現していることを見出した。さらに光顕および電顕レベルの免疫組織化学的解析から、ピノプシンとG11αがニワトリ松果体細胞の外節部分に共存していることも突き止めている。これらの結果から、「ピノプシン→G11α→PLCβ→IP3→Ca2+」というIP3/Ca2+をセカンドメッセンジャーとするカスケードが光の時刻調節に関与しているのではないかと考えている(図2)。興味深いことに、細胞内カルシウムストアからのカルシウム動員を促すカフェインが、光と同様にニワトリ松果体細胞の時計の時刻を変化させるという報告7)もあり、筆者らの仮説に合致する。

図2 ニワトリ松果体細胞の概日時計リセット経路(光入力系)のモデル
 松果体に特異的な光受容分子であるピノプシンが受容した光シグナルは、三量体Gタンパク質のG11に伝えられ、細胞内カルシウムストアからのカルシウム動員を介して概日時計をリセットすると、筆者たちは想定している。ショウジョウバエやマウスを用いた実験から、クリプトクロームは時計機能に何らかの形で関与しているようであるが、ニワトリ松果体細胞に発現しているかどうかは不明である。


 上記の仮説を生きた細胞内において証明するためには、このカスケードを遮断して光による時刻調節が阻害されるか、またはカスケードを一時的に活性化して時計の時刻が変化するかを調べる必要がある。つまり、松果体細胞ひとつひとつを生きた試験管に見立て、その中でノックアウトや変異体を作製しようという試みであるが、その際には単一細胞レベルで概日時計の時刻を検出しなければいけない。

 また、シャーレ内の多数の松果体細胞を用いた従来の研究では、細胞間の時刻情報のやりとりについての解析ができなかった。概日時計の発振機構は細胞内で完結しているものの、松果体という器官全体として時刻を生み出すために、各細胞の時計は同調し合っていると考えられる。各細胞の時刻を検出することができるようになれば、時計細胞間の時刻の同調・脱同調についての知見も得られると期待できる。

 時刻検出の具体的な方法として、これまでに時刻依存的に転写量の変動する遺伝子のプロモーター領域を単離し、GFP遺伝子を結合させたコンストラクトを作製した。これを松果体細胞に導入し、蛍光強度の変動として概日時計の時刻を検出しようと考えている。もちろん冒頭で述べた問題点があるので、励起光によって時計の時刻が変化しない条件を、厳密に設定していく必要がある。

 今後、システムとしての概日時計を理解するためには細胞レベルの研究が重要となり、時刻の可視化は強力なテクニックになると期待している。


図3 時計細胞の時刻を可視化する
 いかにして概日時計の時刻を、CCDカメラによって検出できる光情報に変換するかが時刻可視化の鍵であろう。図の細胞はニワトリ松果体細胞。ルーペの内径は25μmに相当。もちろん、顕微鏡で細胞を覗いても、図のように長針や短針が見えるわけはない…


【謝辞】
 ここで紹介した研究は、東京大学大学院理学系研究科 深田吉孝教授の研究室で行われたものです。加えて、本稿執筆に多大なご援助・ご助言をいただきました。ここに深謝いたします。

【参考文献】
1) King et al. (1997) Cell 89, 641-653; Tei et al. (1997) Nature 389, 512-516; Sun et al. (1997) Cell 90, 1003-1011; Zylka et al. (1998) Neuron 20, 1103-1110; Gekakis et al. (1998) Science 280, 1564-1569; Darlington et al. (1988) Science 280, 1599-1603
2) Okano et al. (1994) Nature 372, 94-97
3) Todo et al. (1996) Science 272, 109-112; Hsu et al. (1996) Biochemistry 35, 13871-13877; Emery et al. (1998) Cell 95, 669-679
4) Plautz et al. (1997) Science 278, 1632-1635
5) Thresher et al. (1998) Science 282, 1490-1494; Stanewsky et al. (1998) Cell 95, 681-692
6) Zatz & Mullen (1988) Brain Res. 453, 63-71
7) Zatz & Heath (1995) J. Neurochem. 65, 1332-1341